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理事長挨拶     

理事長

 公益財団法人杜の都医学振興財団は、「感染症学および微生物学研究の発展に寄与する」ことを目的に、2021年に一般財団法人として設立されました。設立以来、若手研究者への研究助成事業を継続的に展開し、その活動が評価された結果、2023年には公益財団法人としての認定を受けるに至りました。
 昨今、感染症に対する備えと対応は、医療・学術分野のみならず、国際社会や地域社会全体における持続的課題となっています。抗菌薬が効かない薬剤耐性菌(AMR)の拡大は、病院内にとどまらず地域社会や介護施設など多様な場面に広がりを見せており、もはや医療現場のみで対応できる課題ではありません。また、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡がりが人類に大きな影響を与えたことは記憶に新しいところですが、ワクチン開発と普及、感染防御策の確立など、なお多くの課題が残されています。
 しかしながら、高度医療を担う大学病院や拠点病院においてさえ、感染症診療および感染症危機管理の専門家、さらには微生物学研究者の数は決して十分とは言えず、現場での対応にも限界があるのが現状です。一方で、感染症学および微生物学は、診断・検査・治療・予防といった多岐にわたる実践領域を有し、病原体もウイルス、細菌、真菌など多様であるため、幅広い専門知識が求められます。さらに、分子生物学、遺伝学、免疫学、疫学などの分野とも密接に関連しており、日進月歩の科学的知見を的確に取り入れた柔軟な研究姿勢が求められます。
 こうした社会的・学術的背景を踏まえ、当財団では、感染症学および微生物学分野の研究・教育ならびに人材育成のさらなる発展に寄与すべく、多角的な支援活動を今後も積極的に展開していきたと考えています。

理事長:矢野 寿一

財団設立の趣旨   

財団設立の趣旨

 感染症は国や地域、世代を問わず、常に人類の健康と生命にとって普遍的かつ継続的な脅威です。現在、世界では年間約6,000万人が亡くなっていますが、そのうち約800万人は感染症による死亡と推定されており、感染症は依然として主要な死因のひとつです。
 日本においても、近年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は記憶に新しく、感染症診療体制の脆弱さ、専門家の不足、研究体制の遅れなど、様々な課題を浮き彫りにしました。さらに今後も、新興・再興感染症の出現や、抗菌薬が効かない薬剤耐性(AMR)菌の増加などが深刻な問題として懸念されており、感染症対策の重要性は今後ますます高まることが予想されます。
 そのような中で、感染症に立ち向かうための医療人材、特に感染症学・微生物学に精通した専門人材の育成と研究支援が強く求められています。しかし現実には、日本感染症学会が認定する感染症専門医数は、学会が提言する適正規模には達しておらず、また、日本の微生物学関連学会の会員数も減少に歯止めがかかっていない状況です。
 本財団の理事長である矢野は、長年にわたり感染症学、微生物学の研究と教育に携わってまいりましたが、これらの分野における専門人材の不足に加え、感染症や微生物学に対する社会の関心が一過性にとどまり、持続的な理解と支援が十分に根付いていないという現状に強い危機意識を抱いておりました。感染症の脅威が今後さらに高まることが予想される中、将来の医療と公衆衛生を支えるためには、これらの基盤を担う研究者の育成と支援、ならびに持続可能な学術環境の確保が不可欠であるとの認識に至りました。
 こうした背景を踏まえ、感染症および微生物学の研究に携わる研究者を学術的・経済的に支援することを目的として、杜の都医学振興財団を設立いたしました。本財団は、感染症学・微生物学分野における研究活動を助成し、次世代を担う優れた研究者の育成を後押しするとともに、学術水準の向上、さらには社会全体の感染症対策の強化に貢献することを目指しています。これにより、我が国の感染症診療および研究の持続的発展に寄与し、健康で安心して暮らせる社会の実現に貢献したいと考えております。